2008年に練馬区総合教育センターの基礎調査部会の研究アドバイザーに就任しました.その年の基礎調査は子どもの学校適応度 を調査するもので,練馬区の小学校4年生から中学3年生にアンケート調査を行いました.その結果,小中を問わず,子どもたちは 「学校が大好きで,休みたいと考えていない群(A群)」と「学校が好きで休みたいと考えていない群(B群)」,そして「学校があ まり好きではなく,出来れば休みたい群(C群)」の3グループに分かれることが示されました.A群は約15%,C群は約10%で した.C群に長期欠席の子どもが加われば15%前後となり,学校適応度は正規分布することがわかります.

 さらに検討を進めると,A群の子どもはアサーションなどの上手な自己主張スキルがニーズなのですが,C群の子どもはアサーショ ンなど求めず,感情コントロール(「落ち込んだとき,どうしても引きずってしまう」「怒ってしまう自分をとめられない」のスキル を切実に望んでいることがわかりました.一口に「子どものニーズを尊重する」と言っても,学校との関係で子どものニーズが変わっ てくるのです.

 2009年,練馬区総合教育センターの依頼を受け,小・中学校のニーズを検討しながらSST(ソーシャルスキルトレーニング) の実践を行うようになりました.「飛ぶ教室」はこうした実践を行いながら,SSTという技法を研鑽,実践している大学教員,臨床 心理士,公立小・中学校の教員らの勉強会です.子どもの声の集約から生まれ,多くの現場の教員,地域の保護者との協働から生まれ たSSTの研究・実践の会が「飛ぶ教室」です.

幸いなことに開始当初は年間20回の実践だったのですが,やがて他の区にも活動は広がり,現在では年間100回前後の実施回数に なっています.これらの成果は「児童期・思春期のSST−学校現場のコラボレーション−」(三恵社)として出版されています.

 当初は「通常学級へのSST」を中心に活動していましたが,多くの学校を回る過程で,特別支援教育におけるSSTの実践が急増 しました.特に2012年は特別支援学校や特別支援学級でのSSTの実践数がピークに達した年です.特別支援教育の裾野は大変広 く,SSTという単一の技法で全てをカバーすることはできません.そこで支援介助法やビジョントレーニングなどの新しい技法も研 鑽しました.この成果は「児童期・思春期のSST−特別支援教育編−」(三恵社)として出版されています.

 常に実践を前提としてきた私たちは「現場が抱える現実の制約」を存じ上げているつもりです.しかし制約があるからといって何も しないわけにはいきません.さまざまな制約がある中で,子どもたちのために最も効果的な実践をする.そういう現場の方々と協働し ながら,今後とも研鑽していきます.「飛ぶ教室」をよろしくお願いします.

2013年5月5日
千里金蘭大学 生活科学部 児童学科
斎藤 富由起